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舳倉島診療日誌
臨床研修を終えたばかりの新米医師が毎年半年交代で赴任する舳倉診療所。温かい島の人々に囲まれてのんびりすごす島の暮らしを綴りたいと思います。
162.低糖質食のススメ
2012-04-09 07.31.37

こんにちは。

今日も島は時化になりました。

ニューへぐらは欠航でした。


2012-04-09 14.55.07

先輩のレビューを見て、興味を持った本を読んでみました。

『満腹ダイエット』と題された、低糖質食のススメです。

高雄病院の理事長の江部先生が非常にロジックに、順序立てて文章を構成しているため、

興味を持ちながら、スラスラと読めました。

少し堅い話になりますが、勉強になった点、面白かった点を書いてみようと思います。


糖質を取ると、血糖値が上がることは皆さんご存知だと思います。

食事の全てが血糖を上げるわけでなく、この糖質の摂取が血糖上昇を起こすことがミソになります。

しかし日本では不思議なことに、糖尿病の患者さんの食事では、カロリー制限を重点に掲げており、

糖質の制限についてはまだ具体的な記載が行われていないのが現状です。

これが俗にいう『カロリー至上主義』です。

ダイエットでは、このカロリーを抑えることが一番であるという俗説が一般的に信じられています。

江部先生は、まず、ここに警告を鳴らしています。


内臓脂肪が蓄積するとインスリンが効きにくくなるため、

糖尿病患者では脂肪を減らすために食事指導を行いますが、

脂肪を減らす上で大切なことは、『インスリンの出る量を減らす』ことになります。

インスリンが出ると、エネルギーを脂肪として体に溜め込む方に働くからです。

では、インスリンはどうしたら減らせるのか。

それは、血糖値を上げる食事をしないこと、つまりはインスリンの追加分泌を起こさせないことです。


インスリンは御飯を食べていない時間でも少量血中に流れており、それを基礎インスリンと言います。

それに対し、食事での血糖値上昇を防ぐために出るものを追加インスリンと呼んでいます。

この追加インスリンを減らすことがミソになります。


結論を言えば、炭水化物(糖質)を減らすこと、これにより血糖値の上昇を抑えることが出来ます。

具体的には、米や小麦を使った主食を減らし、

肉や魚などの主菜、サラダなどの副菜でお腹を満たすようにします。

これにより、インスリンの追加分泌が抑えられ、体に溜め込む反応が抑えられます。


ここで、肉などの『脂肪分を多く摂取することは体に毒でないのか』ということが疑問になります。

江部先生は、歴史やデータに基づいた証拠を並べています。

人類の400万年の歴史の中、狩猟を主な生計として生きてきたわけですが、

ここで人類が摂取してきたエネルギーは、脂質とタンパク質が主でした。

農耕が世界に広まったのはわずか4000年程前の話であり、

炭水化物(糖質)が主食になったのは人類の長い歴史の中で見れば、ごく最近のことだと言えます。

人類がここまで繁栄し、増加を認めたのは農耕による糖質の摂取が出来るようになったことで、

貯蓄できるというメリットや、大量生産、定期摂取が可能になったことから由来します。

しかし、人間の進化の段階では、体がまだ炭水化物主体の生活に馴染めないのだという事実も散見されます。


根拠は、人間の体に備わったホルモンから説明できます。

血糖値を下げるホルモンというのは、インスリンのみしか持ち合わせていません。

逆に、血糖を上げるホルモンはたくさん持ち合わせています。

これは、元々人間が炭水化物を摂取することを想定された生き物でなかったからでないかと考えられています。

これから何万年と今の生活が続けば、インスリン以外の血糖を下げるホルモンが備わるのかもしれませんが。


最近まで狩猟を主な慣わしとしていたイヌイットは、

心筋梗塞や脳梗塞など血管に由来する病気や、がんによる死亡が少なかったと報告されています。

それが、穀物などの糖質を主食にしてからは、一気に血管病変で死亡する例が多くなり、

がんの発症例が増加したという流れがあります。

また、一般人を対象に①高糖質+低脂肪食と、②低糖質+高脂肪食を比べた試験が行われ、

結果、②低糖質+高脂肪の方が血管病変・がんの発生が少ないこと、

体重減少効果が大きかったこと
などが報告されました。

また、脂質は摂取量が多くなるほど、寿命が伸び、生活習慣病の罹患率が減少するという報告もあります。

よって、カロリーが高いからといって脂肪分を減らすことが果たして正しいのかという疑問が出てきました。

日本が世界一の長寿国になったのは、

『食の欧米化』に伴い、脂質の摂取量が増えたからだという専門家が多いのも事実です。

従来から敬遠されてきた脂肪の摂取を減らし、炭水化物主体が良いとしてきた食事では、

肥満率は世界的に見ても増加の一途を辿るばかりです。

これを反省し、アメリカでは低糖質・高脂肪食をすすめる流れになっており、

近い将来、日本でも必ずこの流れが来るものと思われます。

以上より、現在は、脂質をエネルギーの主体にすることが良いという見解が信仰されています。


血管病変については、血糖値の急激な上昇が血管にとってストレスになることが知られており、

低糖質食により血糖変動を起こさせないことが大血管病変のリスクを減らすことが分かっています。

このことからも、低糖質の利点が見て取れます。


少し難しかったかもしれませんが、方法としては、

炭水化物を12%、脂質を56%、タンパク質を32%を目安として、低糖質食を実践する

(1日1回の置き換えをプチ、2回をスタンダード、3回をスーパー低糖質食と呼んでいます)

最初は3食を置き換えた方が体重減少としては効果があるようです。

目標の体重までいけば、様子を見てスタンダード、プチに減らします。

主食を食べたい人は、玄米にするなどの工夫が良いですし、

思った程の体重減少を認めない人は、カロリー制限を少し加えると1週間でまず2~3キロ減るそうです。


②お酒はビール、日本酒<<焼酎、ウィスキー、ウォッカ、ブランデーが良い。

醸造酒は糖質が高いのに対し、蒸留酒はそうでもありません。

濃度を考えると、焼酎の水割りくらいにしておくのがベターなのかもしれません。

ビール、発泡酒でも『糖質ゼロ』はO.K.ですが、『糖類ゼロ』は糖質を含んでいることに注意が必要です。


お菓子はナッツ類やチーズ、貝柱などの干物、鶏ササミなどにする。

オカキやポテトを使ったもの、チョコは控えめにする。


細かく言うともっとたくさんになりますが、

大好きな麺類を毎日食べるのではなく、週に1回程度にするなんて意識改革が、

20年後・30年後の自分の体を守るのかもしれませんね。


ちなみに『脳は糖分しか利用出来ない』というテレビの報道をよく見かけますが、それは嘘です。

(実際は脳はケトン体もエネルギー源に出来ます。)

もし睡眠中に糖分が不足したなんてことになれば、

寝ている間に意識がなくなるなんてことになってしまいますよね。

こうならないように体が糖分を作る反応をするのですが(これを糖新生と言います)、

ここで低糖質にすると、足りない分のエネルギーの確保のために、

溜め込んだ脂肪が分解され、ケトン体が作られ、エネルギーとして利用されます。

それを作る過程でさらに脂肪が利用され、基礎代謝を上げるように働くという利点もあります。

低糖質食が脳や体に悪そうなイメージを持っていたとしても、

人類が400万年のうちに生き長らえてきた証拠が、それを間違いだとは思わせないでしょう。

何よりこれを20年ほど実践しておられる江部先生がその証拠かもしれません。

そんなことを考えると、島の生活は魚中心で、野菜などを取り、健康なのかもしれませんね。


この本を読むまで、僕自身も誤解を持っていた点がいくつかありました。

それはまだ医学会全体がカロリー至上主義にこだわっている流れもあると思います。

柔軟な意識改革が、明日の日本に繋がるのではないかと思った1日でした。


長文になりましたが、最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。

尚、糖尿病で内服薬がある方、腎臓が悪いと言われている方、膵炎既往がある方はご遠慮下さい。
この記事に対するコメント

昔からある低インスリンダイエットとかアトキンスダイエットと同じ考え方なのですね!!
【2012/04/10 09:34】 URL | さくらい #- [ 編集]


>さくらい先生

そうです!!
EBMの項にもアトキンス実施群のデータを根拠に挙げていました。
今になって江部先生がこれを語っているのは、長年のEBMの蓄積によるみたいですけど。
【2012/04/10 17:28】 URL | 診療所所長 #- [ 編集]


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まとめteみた.【162.低糖質食のススメ】

こんにちは。今日も島は時化になりました。ニューへぐらは欠航でした。先輩のレビューを見て、興味を持った本を読んでみました。『満腹ダイエット』と題された、低糖質食のススメです。高雄病院の理事長の江部先生が非常にロジックに、順序立てて文章を構成しているため、... まとめwoネタ速suru【2012/04/09 18:36】

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